書道とは、文字の美しさを追及し、書くことを通して精神性を高めていくことですが、人の生活に寄り添い感覚に触れるような書が、私の理想としているところです。
移りゆく時代の中で、書くことにおける価値観が揺らいでいます。
私は日本の伝統文化としての書の美点を相対化する視点を持つこと、そして、変化の中でかき消されそうになる繊細な価値に目を向けることが、人の生活を豊かにすることにつながることと思っています。

和歌には、当時の人々の自然観や恋愛観が文字に色濃く映し出されています。
流れるように書く流麗な書き方や、散らしながら書くことで生まれる構成美など、平安時代の女性たちによって発展を遂げてきた美しい平仮名は、典雅な美しい世界を紡いでいます。
平仮名を書くことは、伝統文化に触れることでもあり、日本文化を貫く美意識を育むことにもなるのです。

先人の書を模倣する「臨書」というものがあります。
臨書は、文字の形や筆意を読み取ることだけではなく、紙の上には書かれていない対象にまで意識を通わせるという、いわば対象に寄ったうえで自らの立ち位置に戻って書くことを意味しますが、そこに書道の本質があると言えます。

私は書家として、単に書く技術だけではないコミュニケーションの根幹としての書を、また、伝統的な書を通して日本の文字の魅力や美しさを広めていくことに努めてまいりたいと思っています。